雇用保険にはさまざまな保険給付が存在します。
今回はその中でもよく申請されているものをご説明いたします。
失業した求職者が就職活動をする間の生活安定を目的として給付される求職者給付金です。
一般被保険者が失業した場合には「基本手当」、「技能習得手当」、「寄宿手当」、「傷病手当」が支給されます。
高年齢継続被保険者が失業した場合には「高年齢求職者給付金」、短期雇用特例被保険者は「特例一時金」。
日雇労働被保険者は「日雇労働求職者給付金」がそれぞれ支給されます。
基本手当とは被保険者が定年や倒産、契約満了等により離職した場合、求職の申し込みをハローワークに行うことで基本手当の給付を受けることができます。
ただし、離職前に一定期間雇用保険の被保険者であることが条件です。そしてこの期間は離職の理由により異なりますので注意が必要です。
一般被保険者の自己都合退職などの場合は、離職の日以前2年間で通算して12か月以上の被保険者期間があること。
一方で、倒産や人員整理による解雇、病気などにより就労ができなくなる方はそれぞれ「特定受給資格者」、「特定理由退職者」と呼ばれ、離職の日以前1年間で通算して6か月以上の被保険者期間があると基本手当を受給することができます。
雇用保険の性質上、やむを得ない理由で離職する方には手厚い保護を与える考えに基づいていますが、これは給付日数にも違いが表れています。
特定受給資格者は被保険者であった期間や被保険者の年齢により給付日数が定められていて、年齢が高くなるほど(60歳まで)、また一つの事業に長く携わった労働者の方ほど再就職が難しくなる等の理由で給付日数が多く設定されています。
雇用保険で給付される1日あたりの金額を「基本手当日額」と呼びます。
これは離職した直前の6か月間で毎月決まって支払われていた賃金に応じて決まります。
直前の6か月間で毎月決まって支払われた賃金の合計額を180で割った金額のおよそ50%~80%(60歳以上65歳未満は45%~80%)の金額が基本手当日額となりますが、一定の金額を超えると上限が設けられています。
この「基本手当日額」が上記の給付日数分基本手当として給付されます。
技能習得手当とは、基本手当の受給資格者が再就職に備えて公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受ける場合に支給されるものです。
技能習得手当には公共職業訓練等の受講日数に応じて支給される「受講手当」と訓練を受けるために施設に通う旅費の「通所手当」があります。
寄宿手当は、基本手当の受給資格者が公共職業訓練等を受けるために養っている家族のもとを離れて別居する場合に支給されるものです。
寄宿手当の月額は10,700円で、家族と別居して寄宿していた日数分を計算して支給されます。
傷病手当とは、基本手当の受給資格者が求職の申し込みを行った後、15日以上継続して病気やケガのために就職することができない場合に支給されるものです。
基本手当は求職の申し込み後、職業に就く能力と意思のある方に支給されますが、病気やケガで15日以上就労できない方には支給されません。
それをカバーするために傷病手当として基本手当日額相当額が受給資格者に支給されます。
高年齢求職者給付金は、高年齢継続被保険者が失業したときに支給されるものです。
雇用保険の離職前被保険者期間に応じて、30日分または50日分に相当する金額が一時金で支給されます。
特例一時金は、短期雇用特例被保険者が失業認定をされた日に支給されるものです。
特例一時金の給付を受けるためには、離職の日以前1年間で通算して6か月以上被保険者であった期間が必要になります。
日雇労働被保険者が失業したときには、失業の日の属する月の前2か月間で通算26日分以上の雇用保険印紙が貼りつけられていると日雇労働求職者給付金の支給を受けることができます。
就職促進給付は失業者が再就職することを支援するために「就業促進手当」等が給付される制度のことです。
「就業促進手当」には「再就職手当」や「就業促進定着手当」、「就業手当」、「常用就職支度手当」があり、その他の「移転費」や「広域求職活動費」もあわせて就職促進給付が行われます。
再就職手当は、基本手当の受給資格のある方が安定した職業に就いた場合に支給されるものです。
しかし、基本手当の支給残日数が定められた給付日数の3分の1以上残っていなければなりません。
つまり、90日間基本手当の給付を受けられる方だと、基本手当の給付が30日以上残っている状態で再就職しなければ支給されません。
再就職手当を支給された方がその再就職先に6か月以上継続して雇用されていて、再就職後の賃金が離職前の賃金に比べて一定の割合で低下している場合に就業促進定着手当が支給されます。
就業手当は、基本手当の受給資格者が基本手当の給付を所定日数の3分の1以上、かつ45日以上残した状態で再就職手当の支給対象とならない雇用形態で就業した場合に支給されるものです。
常用就職支度手当は、基本手当等の受給資格があり、障害などにより就職が難しい方が安定した職業に就いたときに一定の要件に該当すると支給されるものです。
移転費は、ハローワークの紹介した職業に就くために転居する場合に一定の要件に該当すれば交通費や移転料が支給されます。
これは公共職業訓練等を受けるために転居する際も同様に支給されます。
広域求職活動費は、ハローワークの紹介により遠方にある企業へ求職活動のために赴く際に支給される活動費で、交通費や宿泊費が規定により支払われます。
雇用継続給付とは、一般被保険者が再雇用などで賃金が減った場合や、育児や介護等の理由で雇用の継続が難しくなった場合に給付金が支給される制度のことです。
「高年齢雇用継続給付」、「育児休業給付」、「介護休業給付」の3つの給付があります。
高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者の方が対象の給付金のことです。
原則として60歳時点の賃金と比べて賃金が75%未満になった場合に、減った賃金の15%を上限として65歳になる月まで支給されます。
高年齢雇用継続給付には、60歳以降も同じ事業主に引き続き雇用される際に支給される「高年齢雇用継続基本給付金」と、基本手当を受給し、60歳以後に再就職した場合に支給される「高年齢再就職給付金」があります。
育児休業給付とは、一般被保険者が1歳または1歳2か月未満(保育所に入れないなどの事情があれば1歳6か月まで)の子を養育するために育児休業した場合に「育児休業給付金」が支給される制度のことです。
育児休業する直前の2年間で、賃金の支払われた日数11日以上の月が12か月以上あることが支給要件となります。
育児休業給付金の支給額は育児休業期間中に支給される賃金によって異なり、育児休業前の30%以下の場合は休業開始時賃金日額の67%(育児休業の開始から6か月経過後は50%)が月額285,621円(6か月経過後は213,150円)を上限に支給されます。
育児休業期間中の賃金が30%以上80%未満の場合は、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた金額の80%から支給されている賃金を差し引いた金額が支給されます。
なお、育児休業期間中の賃金が育児休業前の80%以上支給されている場合は育児休業給付金が支給されませんので注意が必要です。
介護休業給付とは、一般被保険者・高年齢被保険者(介護休業開始前2年間に被保険者期間が12か月以上あること)が対象家族を介護するために93日未満の介護休業をした場合において、支給される制度のことです。
休業終了日の翌日から起算して、2か月を経過する日の属する月の末日までに、申請書に休業開始時賃金証明票ほか所定の書類を添えて所轄公共職業安定所長に提出することによって給付されます。
同一の対象家族1人につき、1回(平成29年1月以降は3回)までの介護休業が対象です。
※要介護の状態が異なっていれば介護休業給付金の対象となりますが、通算で93日までしか支給されませんので注意が必要です。
休業期間中に事業主から賃金が支払われる場合、その賃金が休業開始時月額の40%(当分の間13%)以下である場合は、給付は全額支給され、40%(13%)を超え80%未満である場合は差額支給となり、80%以上の場合は給付は行われません。
対象家族とは、当該被保険者の配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫である。
教育訓練給付とは、一定の条件を満たす一般被保険者または一般被保険者でなくなったときから1年以内の方が厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し、終了した場合に教育訓練給付金が支給される制度のことです。
教育訓練給付金の額は支給対象となる教育訓練の内容によって異なりますが、おおよそ教育訓練施設に支払った教育訓練費の20%または40%に相当する金額が支給されます。
この教育訓練給付の制度は平成26年に大幅な見直しが行われ、専門性の高い中長期的なキャリア形成に関する教育訓練は、従来(20%)よりも多くの給付金(40%)が支給される制度となりました。
雇用保険は上記の給付以外にも「雇用保険二事業」と呼ばれる事業を行っています。
具体的には、失業を予防することを目的とした「雇用調整助成金」や離職者の円滑な再就職を促すための「労働移動支援助成金」、労働者のキャリアアップのための「キャリア形成促進助成金」など、事業主を助成するための事業を行っています。
こういった給付金の申請代行は専門である社会保険労務士が代行して申請することができます。
当事務所ではスポットでのご依頼も承っております。お気軽にお問合せください。
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